多発性硬化症
(MS)
専門医からの
メッセージ

MSとMS患者さんを見続け、支えてこられた先生方から
患者さんへのメッセージです。

多発性硬化症(MS)治療の古今

これまでの30年間、私はMS診療に携わって参りました。過去においてはMSの治療といえば再発時のステロイドパルス療法以外に治療法はなく、再発抑制効果を示す治療法の開発が望まれていました。2000年代にIFN(インターフェロン)注射が発売され、MSの治療は飛躍的に進歩し、それまで再発時のみの治療から再発抑制の時代へと変遷しました。2010年代に本邦から経口剤が市販されました。
一方、これら新薬によりMSの再発が抑制されない、むしろ増悪する病態が指摘され、抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎(NMO)であることがわかり、MSの中にMS同様な他疾患が含まれていることが確認されました。
新たな治療法の開発により新たな疾患が発見され、その病態を解明することでMSの研究が発展しています。最近ではMSの再発抑制ではなく、MSを根治する治療法の開発も進められています。MSの治療は日々進歩しています。

野村 恭一

埼玉医科大学
総合医療センター 神経内科
教授 野村 恭一 先生

野村 恭一

多発性硬化症(MS)を
しっかり理解してください

まずはMSをしっかりと理解してください。MSは、症状がなくても水面下で進行することが多い病気です。症状が治まっている時にも、治療を続けないといけません。今ある効果の高い治療薬を適切に使って、進行を抑えることができたら、結婚、出産、育児、海外旅行もできるようになるでしょう。すでに障がいのある人の場合でも、これ以上悪化させないことが可能です。
そのためにも、しっかりと治療を行うことです。3ヵ月に1回医師の顔を見に来ていただいて、ぜひ明るい生活を送ってほしい。
それだけです。

齋田 孝彦

関西多発性硬化症センター
所長 齋田 孝彦 先生

齋田 孝彦

多発性硬化症(MS)の
治療継続のために

この数年の間に多発性硬化症(MS)の治療薬は5種6剤に増えました。また、剤形も注射剤だけでなく、内服薬も選択肢に加わり、それぞれの患者さんに適した薬剤の使い分けができるようになりました。このことは、QOLを考えるうえでも大きな意義があると思います。
一方、どの薬剤を使用するにしても、副作用の早期発見に努め、有効性と安全性について患者さんと一緒に考えながら治療を進めていくことが重要です。気になることがあれば、医師にご相談いただき、治療をはじめたらぜひ継続してください。

横山 和正

順天堂大学
医学部附属順天堂医院
脳神経内科
臨床講師 横山 和正 先生

横山 和正

一人一人の患者さんにとって
最善の治療を

この20年ほどの間に、多発性硬化症(MS)の診断と治療は本当に目覚ましい進歩をとげました。実際に多くの研究が、以前に比べて最近はMSの長期的な予後が改善されてきていることを明らかにしています。またMSの情報も、本やインターネットなどで容易に得ることができるようになってきました。
一方、どのように最善の治療をしていくかは、臨床経過やMRIその他の検査所見はもちろん重要ですが、一人一人の患者さんの価値観、ご家族や社会生活の状況なども含めて個別に考えていく必要があります。難しい問題もありますが、皆で協力して解決していきましょう。

藤原 一男

福島県立医科大学 医学部
多発性硬化症治療学講座
教授 藤原 一男 先生

藤原 一男

多発性硬化症(MS)患者さんの
社会生活や
家庭生活を支援

私は1980年に多発性硬化症(MS)の研究を始めてもう40年近くになりました。1985年に九州大学病院にMRIが導入されて以来、 MS専門外来をしていますので、長い方は30年以上診させていただいています。私が神経内科医として診療を始めた頃は、MSの治療薬は少なく、入院治療が主でした。しかし、この間にMSの治療薬は大きく進歩し、再発は少なくなりました。私は福岡県難病相談支援センター長として、6名の相談員の方とともに難病患者さんの医療・介護、就労・就学などの相談・支援事業にあたっています。
MSは症状も多様、経過も様々で、なかなか周囲の方に理解していただくことが難しい病気です。病状に応じて最も適した薬を選択してMSの再発や進行をできるだけ抑えて、幸せな社会生活や家庭生活を送ることができるよう支援していきたいと思っています。

吉良 潤一

九州大学大学院 医学研究院
脳研 神経内科学
教授 吉良 潤一 先生

吉良 潤一

多発性硬化症(MS)の
患者の皆様へ

私がMSの専門外来で診療に携わるようになって17年近くの歳月が過ぎました。この間、多くの患者さんに出会い、MSに関してのみならず、人として多くのことを学ばせていただきました。身体のさまざまな不自由、将来に対する不安を抱えながらも前向きに、ひたむきに日々過ごされている姿には本当に頭の下がる思いになります。
実はこの17年でMSを中心とした神経疾患の診断、治療はめざましく進歩しました。日本で認可されたMSの再発予防薬は17年前はたった 1剤でしたが、現在では6剤にも増え、患者さんの状況に合わせて使い分けられるようになっています。
治療薬は今後とも増えていく予定が立っており、皆様にとってよりよい未来が期待できるように思います。

森 雅裕

千葉大学
大学院医学研究院 脳神経内科学
准教授 森 雅裕 先生

森 雅裕

人生や夢をあきらめないために

二つだけお願いがあります。一つは、あなたに合った治療薬を続けてください。あなたにどの治療薬が適しているのか、わからなければ(迷うなら)いつでも相談に来てください。そしてもう一つは、少なくとも年に1回、できれば2回、脳のMRIを撮ってもらってください。定期的にMRIを撮っておくことは非常に大事なことです。
あなたが多発性硬化症になったのは誰のせいでもありません。
多発性硬化症になったからと言って人生をあきらめる必要は全くありません。病気を理由に夢をあきらめる必要もありません。きちんと治療を継続していればこれからの生活で制限しなくてはならないことは何もありません。勉強、仕事、恋愛、結婚、出産、旅行、スポーツ、ゲーム、なんでも楽しんでください。お酒だって飲んで大丈夫です。そして、疲れたら休みましょう。もし、再発したら一緒に治療しましょう。

中島 一郎

東北医科薬科大学
老年神経内科学
教授 中島 一郎 先生

中島 一郎