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参照情報
進行性多巣性白質脳症(PML)とは
PMLとは
- ポリオーマウイルスであるJCウイルス(JCV)が脳のオリゴデンドロサイトに感染し、多巣性の脱髄病変を呈する感染性中枢神経脱髄疾患(中枢神経系の稀な日和見感染症)。
初期症状
- 片麻痺、四肢麻痺、認知機能障害、失語、視覚異常など。
- 増悪とともに四肢麻痺、構音障害、嚥下障害、不随意運動、脳神経麻痺、失語などが加わり、失外套状態に至る。
PMLとMSの再発の鑑別に有用な臨床的特徴
臨床症状 | ||
---|---|---|
MS | PML | |
発現 | 急性 | 亜急性 |
進行 | ・数時間~数日 ・通常停止 ・自然に又は治療で改善 |
・数週間 ・進行性 |
臨床症状 | ・複視 ・錯感覚 ・不全対麻痺 ・視神経炎 ・脊髄症 |
・失語症 ・行動及び神経心理学的変化 ・視交叉・後性視覚障害 ・片麻痺 ・けいれん発作 |
【参考】Kappos L et al: Lancet Neurol 10(8): 745-758, 2011
PMLの診断基準
- Defi nite PML:下記基準項目の5を満たす。
- Probable PML:下記基準項目の1、2、3および4を満たす。
- Possible PML:下記基準項目の1、2および3を満たす。
- 1. 成人発症の亜急性進行性の脳症1)
- 2. 脳MRIで、白質に脳浮腫を伴わない大小不同、融合性の病変が散在2)
- 3. 白質脳症をきたす他疾患を臨床的に除外できる3)
- 4. 脳脊髄液からPCRでJCV DNAが検出4)
- 5. 剖検または生検で脳に特徴的病理所見5)とJCV感染6)を証明
注
- 免疫不全(AIDS、抗癌剤・免疫抑制剤投与など)の患者や生物学的製剤(ナタリズマブ、リツキシマブ等)を使用中の患者に好発し、小児期発症もある。発熱・髄液細胞増加などの炎症反応を欠き、初発症状として片麻痺/四肢麻痺、認知機能障害、失語、視力障害、脳神経麻痺、小脳症状など多彩な中枢神経症状を呈する。無治療の場合、数ヵ月で無動性無言状態に至る。
- 病巣の検出にはMRIが最も有用で、脳室周囲白質・半卵円中心・皮質下白質などの白質病変が主体である。病変はT1強調画像で低信号、T2強調画像およびFLAIR画像で高信号を呈する。拡散強調画像では新しい病変は高信号を呈し、古い病変は信号変化が乏しくなるため、リング状の高信号病変を呈することが多くなる。造影剤増強効果は陰性を原則とするが、まれに病巣辺縁に弱く認めることもある。
- 白質脳症としては副腎白質ジストロフィーなどの代謝疾患やヒト免疫不全ウイルス(HIV)脳症、サイドメガロウイルス(CMV)脳炎などがある。しかしAIDSなどPMLがよくみられる病態にはしばしばHIV脳症やCMV脳炎などが合併する。
- 病初期には陰性のことがある。経過とともに陽性率が高くなるので、PMLの疑いがあれば再検査する。
- 脱髄巣の腫大核に封入体を有するグリア細胞の存在、アストログリアの反応、マクロファージ・ミクログリアの出現。
- JCV DNA、mRNA、タンパク質の証明もしくは電子顕微鏡によるウイルス粒子の同定。
PCR:polymerase chain reaction
【参考】厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業)
プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班、2013