適正使用ガイド

注意すべき副作用とその対策

「初回投与時」の注意事項 -徐脈性不整脈-

徐脈性不整脈の発現状況

  • イムセラの投与開始時には心拍数低下、房室伝導の遅延が生じることがあります。
  • 徐脈及び房室ブロックは、通常一過性で無症候性ですが、浮動性めまいや疲労、動悸などの症状を伴うことがあります。
  • 海外臨床試験で、健康成人を対象にイムセラ5mg(イムセラの承認用量は1日1回0.5mgです)を反復経口投与したとき、心拍数は図1の通り推移します。
  • 国内臨床試験で、多発性硬化症患者を対象にイムセラを投与したとき、心拍数は図2の通り推移します。
  • 心拍数の低下はイムセラ初回投与1時間以内に始まり、6時間後までには最大(脈拍で平均約10拍/分の低下)に達します(図3)。
  • 投与2日目以降にも心拍数が低下することがありますが、投与1日目に比べるとその低下幅は小さくなります。
  • なお、本剤の投与を継続すると、イムセラ初回投与時にみられた心拍数の低下は認められなくなりますが、心拍数の低下が回復するまでに1ヵ月を要します(図4)。したがって、その期間も注意が必要となります。

図1 イムセラを反復経口投与したときの平均心拍数の時間推移〔海外データ〕

※:イムセラ1カプセル(0.5mg)の10倍量
本邦におけるイムセラの用法・用量は、1日1回0.5mg

臨床薬理試験

【対象】
健康被験者12例(日本人6例、白人6例)
【方法】
イムセラ投与前日(プラセボ投与)からイムセラ5mgを1日1回午前7〜8時に反復経口投与後の心拍数の推移を、ホルター心電図を用いて測定した。

Kovarik JM et al: J Clin Pharmacol Ther 45(2): 98-109, 2007
[社内資料]

図2 ベースライン期及び投与1日目の24 時間ホルター心電図に基づく1 時間ごとの心拍数の推移〔国内第Ⅱ相試験〕

図3 初回投与日の坐位脈拍数の変化量推移
〔国内第Ⅱ相試験〕

図4 6ヵ月間の坐位脈拍数の変化量推移
〔国内第Ⅱ相試験〕

国内第Ⅱ相試験

【対象】
日本人再発性多発性硬化症患者168例(年齢:18〜60歳、EDSS:0〜6.0、過去1年間に1回以上又は過去2年間に2回以上の再発を経験又はスクリーニング期のGd造影T1強調病巣が1つ以上、試験薬割り付け前30日間に再発を経験していない、スクリーニング期のT2病巣が1つ以上)
【方法】
プラセボ対照・無作為化・二重盲検比較試験。対象患者を無作為に3群に割り付け、イムセラ0.5mg、1.25mg、又はプラセボの1日1回経口投与を6ヵ月間行い、イムセラの有用性をプラセボと比較検討した。
【心血管系リスクに関する除外基準】
  • 心停止の既往がある患者
  • 試験薬割り付け前6ヵ月以内に心筋梗塞を発症した患者又は不安定な虚血性心疾患の合併がある患者
  • スクリーニング期に心不全[ニューヨーク心臓協会の心機能分類でⅢ度]の合併がある患者又は治験責任医師又は治験分担医師により重症心疾患と診断された患者
  • 症候性徐脈の既往がある患者
  • 第Ⅱ度又は第Ⅲ度房室ブロックの既往又は合併がある患者、あるいはスクリーニング期の心電図検査で440msを超えるQTc延長がみられた患者
  • アミオダロンやソタロール等のクラスⅢ抗不整脈剤による治療が必要な不整脈の合併がある患者
  • 試験薬割り付け前の安静時脈拍数が55bpm未満の患者
  • 洞不全症候群又は洞房ブロックの既往がある患者
  • 血管迷走神経性失神に対する精査としての傾斜試験(Head up tilt test)で陽性を示した既往がある患者
  • 冠動脈攣縮による狭心症の既往又はレイノー現象の既往がある患者
  • 処方薬を投与してもコントロール不良な高血圧症の合併がある患者
    (本試験には心血管系リスクを有する患者は含まれていない)

※:本邦におけるイムセラの用法・用量は、1日1回0.5mg
[社内資料]

海外で報告された心停止及び原因不明の死亡例 [海外データ]

  • 海外で、初回投与後6時間の観察期間には異常を認めず、投与21時間後に心停止を発現した患者と24時間以内に死亡した状態で発見された患者(原因は不明)が報告されました。
  • これらの症例とイムセラとの関係性は明らかではありません。
初回投与後に心停止を発現し回復した1例 [海外症例]

20代、男性 再発寛解型多発性硬化症患者(病歴2年)

【イムセラ投与量】
0.5㎎
【併用薬】
リスペリドン
【既往歴】
心障害の既往歴、家族歴なし。
【経過及び処置】
2年前 MSと診断。治療歴なし。
3日前 MS悪化の診断で入院し、メチルプレドニゾロン1g/日、3日間投与。血液検査:血球数、肝機能正常。基礎心拍数60〜70bpm。イムセラ投与前の心電図未測定。
投与開始日 メチルプレドニゾロン中止、プレドニゾン経口投与開始。PR間隔、QRS波、QT間隔正常。
21時間後 徐脈(30〜40bpm)発現。直後に7.5秒間の心停止発現。嘔気、倦怠感、眼球後転、四肢痙攣が発現。心拍は自発的に50bpm台前半まで回復。輸液投与。
48時間後 心拍数60〜70bpmに回復。心電図正常。

Espinosa PS et al : Multiple Sclerosis Journal 17(11) : 1387-1389, 2011

初回投与後に原因不明で死亡した1例 [海外症例]

50代、女性 再発寛解型多発性硬化症患者(病歴3年)

【イムセラ投与量】
0.5㎎
【併用薬】
メトプロロール、アムロジピン、テマゼパム、ナプロキセン
【既往歴】
非喫煙者。BMI:29.2。不眠、高血圧、小脳橋角部腫瘍切除による第7脳神経麻痺。10年以上症状あり。
【経過及び処置】
3年前 MSと診断。脳幹部の病変顕著。ナタリズマブの治療歴あり。
103日前 心電図測定:心拍数66bpm。前壁梗塞を疑うもST上昇なく、循環器専門医は異常なしと判断。血液検査正常。
投与開始日 血圧128/75、心拍数61bpm。
5時間後 心拍数56bpmに低下。
6時間後 心拍数59bpmに増加。バイタルサイン安定。心機能障害の徴候や徐脈の症状なし。心電図未測定。6時間観察を問題なく終了し、帰宅。
夕食後 頭痛発現、ナプロキセン2錠服用、就寝。
19時間半後 起床。隣室の空調の電源を入れる。
23時間後 夫がベッドで死亡しているのを発見。
【剖検所見】
MSによると思われる多数のプラークを白質に認める。橋に軽度の希薄化、髄質と中脳に炎症を伴わない軽度の浮腫、脳と脊髄に急性プラークと低酸素を認める。
軽度の左室肥大と右室拡大を認めるが、梗塞や冠動脈血栓はない。心伝導系に異常なし。アテローム動脈硬化性心血管疾患あり。
死因に繋がる解剖学的所見なし。

なお、2月29日現在、本剤は全世界で34,000人/年以上の患者に投与されていますが、初回投与後24時間以内に死亡した症例はこの1例のみです。

リスクを軽減するための注意事項
初回投与時のモニタリングについて
  • 徐脈性不整脈に関連した徴候又は症状を確認するため、初回投与後少なくとも6時間後までは1時間ごとにバイタルサインの観察を行い、初回投与前及び初回投与6時間後に12誘導心電図を測定してください。また、初回投与後24時間は心拍数及び血圧の測定に加え、連続的に心電図をモニターしてください(図5
  • 徐脈性不整脈に関連する徴候又は症状(浮動性めまい、疲労、動悸等)があらわれた場合には、適切な処置を行い、少なくともそれらの徴候・症状が消失し、安定化するまで患者を観察してください。また、次の投与時(翌日又は休薬後再開時)にも心電図をモニターする等、十分な注意、観察を行ってください。
  • 投与初期には、めまい、ふらつきがあらわれることがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械の作業をする際には注意するよう指導してください。

図5 初回投与当日の投与スケジュール

初回投与当日の投与スケジュール

:休薬後にイムセラの投与を"再開"する場合

  • 本剤の薬物濃度が定常状態に到達した後に2週間を超える休薬をした場合は、投与再開時に心拍数及び房室伝導に対する影響が認められるおそれがあるため、初回投与時と同様注意、観察を行ってください。
    なお、休薬期間が2週間以内の場合も、投与再開時は十分に注意してください。
  • また、本剤の薬物濃度が定常状態に到達する前に休薬し、投与を再開する場合は、投与期間や休薬期間を考慮し、初回投与時と同様の注意、観察を行う等十分に注意してください。
投与再開時について
  • 本剤の薬物濃度が定常状態に到達した後に2週間を超える休薬をした場合は、投与再開時に心拍数及び房室伝導に対する影響が認められるおそれがあるため、初回投与時と同様の注意、観察を行ってください。なお、休薬期間が2週間以内の場合も、投与再開時は十分に注意してください。
  • また、本剤の薬物濃度が定常状態に到達する前に休薬し、投与を再開する場合は、投与期間や休薬期間を考慮し、初回投与時と同様の注意、観察を行う等十分に注意してください。
【警告】より ―循環器専門医との連携について―
イムセラの投与開始後は、数日間にわたり心拍数の低下作用がみられます。特に投与初期は大きく心拍数が低下することがあるので、循環器を専門とする医師と連携するなど、適切な処置が行える管理下で本剤の投与を開始してください。
(注)医療施設の「施設要件」
  1. ①本剤の適正使用情報を伝達できている施設であり、e-learningを受講して本剤の有効性及び安全性について十分な知識を有することを確認された医師が在籍している施設であること。
  2. ②多発性硬化症(MS)の診断が可能で、十分なMS治療経験を有する医師であり、原則として日本神経学会、日本神経免疫学会、日本神経治療学会のいずれかの学会に所属する医師が在籍している施設であること。
  3. 循環器を専門とする医師と連携するなど、適切な処置が行える管理下での投与開始ならびに心電図測定を含む観察が可能な診療体制が取られていること。
  4. ④本剤の重篤な副作用(感染症等)へ対応できる診療体制が取られている施設であること。
  5. ⑤眼科医との連携を取ることが可能な施設であること。
  6. ⑥全例調査への理解と協力が得られた施設であること。
【禁忌】について
クラスⅠa(キニジン、プロカインアミド等)またはクラスⅢ(アミオダロン、ソタロール等)抗不整脈剤を投与中の患者に対しては、本剤を投与しないでください。
【慎重投与】について
  • 第Ⅱ度以上の房室ブロック、洞不全症候群、虚血性心疾患、うっ血性心不全のある患者
  • 心拍数の低い患者、β遮断薬を投与中の患者、カルシウム拮抗薬を投与中の患者又は失神の既往歴のある患者
  • 低カリウム血症、先天性QT延長症候群又はQT延長のある患者 に対しては慎重に投与してください。
【併用禁忌】、【併用注意】について
  • クラスⅠa〔キニジン(硫酸キニジン)、プロカインアミド(アミサリン)等〕、クラスⅢ〔アミオダロン(アンカロン)、ソタロール(ソタコール)等〕の抗不整脈剤とは併用しないでください。(【併用禁忌】本剤の投与により心拍数が低下するため、併用により不整脈を増強するおそれがある)
  • β遮断薬〔アテノロール等〕、カルシウム拮抗薬〔ベラパミル、ジルチアゼム等〕との併用は注意してください。(【併用注意】共に徐脈や心ブロックを引き起こすおそれがある)
なぜ、イムセラ初回投与時に「心拍数低下」が起こるのか?

S1P受容体を介して、心拍数低下に関連するイオンチャネルを活性化させることで発現すると考えられています

スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)は心拍数低下作用を有するリン脂質です。S1P受容体には5種類のサブタイプがあり、そのうちS1P1受容体はリンパ球や神経細胞、血管に高発現しています。S1P1受容体の機能的アンタゴニストであるイムセラは、動物実験(ラット、モルモット)の結果から、洞房結節に局在しているS1P受容体のシグナル伝達を介して、S1Pと同じ薬力学作用(心拍数低下)を示すことが報告されています。なお、その作用は、心拍数低下に関連するイオンチャネル(GIRK/IKACh:G蛋白質共役型内向き整流カリウムチャネル/内向き整流アセチルコリン感受性カリウムチャネル)を介することが示されています。

[社内資料]

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